Pi pipipipipipipipipipippi… (あ、最後ちょっと咬んだ・笑)
【 (ぴー) ヨウイチです。
ただ今、よい子のお悩み相談室開催のため、電話に出られません。
御用とお急ぎの方は、
ぴーという発信音の後にメッセージをお残し下さい。
あ、阿含かルイだったら、大急ぎでウチまで来いな。以上。(ぴー)】
おやや? 今日のはちょこっと雲行きが違うみたいですね。
◇
ネット上のサイトほどじゃあないにせよ、
不特定多数の人が聞く代物へ、
しっかり名指しでの個人的な伝言を入れていた坊やも坊やなら、
それで呼ばれた側も側かも…と今頃になって思いつつ。
「………で?
俺か歯医者だったらなんて大雑把なくくりにして、
一体 何をさせたかったんだ?」
機能的といや聞こえはいいが、
おもちゃの類やマンガ本も置かれてはなく、
その代わりのように、
ノートパソコン数台と
デスクトップ用らしい本体ユニットのPCがやはり数台、
学習デスクに積み置かれ。
アメフトとPC言語関係の専門誌が詰まった書架にベッドという、
どこの工学大生の下宿ですかと言わんばかりな此処こそは。
妖一くんのお部屋、
かっこ 只今“よい子のお悩み相談室”として使用中
かっこ閉じる…であり。
時を積むごと、どんどんと本格化しつつある特化ぶりながら、
“お子様の部屋なんだよ”という事実への裏打ち代わりか、
よい子の等身大見本でもあろう小さな瀬那くんが、
ちょっぴりベソかいた後らしい目許で同席しており。
相変わらず、赤ちゃんのそれみたいな柔らかさの頬が、
興奮したのかうっすら赤いのが、何ともまあまあ愛くるしい。
とはいえ、
“進やジャリプロは一緒じゃねぇんだな。”
この子がこぉんなお顔になってて、
しかも解決に至らなくって…と、
こちらの小悪魔坊やを頼る際には。
上手に説明するための補佐だったり、
はたまた、妖一くんから無茶ぶりされぬようにというガードだったり、
必ず同伴して来る大きなお兄さんたちの姿はなくて。
そこいらもまた、いつもの“お悩み”とは違うことらしいヒントに
“……なんねぇよな。”
逆の立場で、この妖一坊やがそういうあれこれを提示されたなら、
それはあっさりと、何で困っているのか当ててしまえるのだろうが。
あいにくとそういう推察は大の苦手だと、
それこそ あっさり見切った葉柱が。
いづれも小さなお子様相手とはいえ、
欠片ほども遠回しにならずな、
ズバリとした口調で訊いたところが、
「あのねあのね、この子のことなの。」
セナくんが座っていたのはベーグルを模した大きなクッションで。
日頃はそんな愛らしいものを置いている部屋じゃないことくらい、
重々知っている葉柱だったが、
椅子とて揃ってはない子供部屋だからと、
どっかから拝借して来たのだろうという想像は出来た。
ただ、それがあの父上のお手製、
ミシンなんか使ってねぇぞという手縫いの代物だと聞かされるのは、
ずんと後日の話だが。(…そんなの今は関係ねぇ・苦笑)
この子と言って、セナくんが小さなお膝に載っけたのは、
少し大きめのランチボックスサイズのバスケット。
籐を編んだタイプのよくある手提げカバンだったが、
留め金を開けると同時、中にいた存在がご挨拶のように鳴き声を上げる。
曰く、
―― にゃぁおうvv
「………猫だな。」
「正確には、セナんチのタマだ。」
「知っとるわ、そのくらい。」
いつぞやは迷子になったの探しましたしねぇ。
……あれ? でも。だとすれば、あのあの。
ほんの最近にもこの子が話題になったご相談があったような?
「今日はルイに、
こやつを義侠心あふれる不良へ鍛え直してほしい
…ってんじゃあなくてだな。」
「?? 何言ってやがんだ? 話が見えんぞ?」
そっか、さすがに前回のご相談は、
お兄さんまで伝えてなかったんだな。(当たり前だっ)
というよな、ややこしいごちゃごちゃを繰り出していたところ、
―― にゃぁおうvv
またまた転がり出るよに聞こえたのは、
甘やかで愛らしい猫の鳴き声だったのではあるが。
何というのか、同じ猫のそれとは思えないほどに、
舌っ足らずな幼い声だったような…。
「……え?」
「にゃぁおうvv」
「あのねあのね、この子はみぃちゃんなの。」
いや、お名前を聞いたんじゃなくてだなと。
葉柱が見下ろしていた足元に、
続きましてと飛び出してきたのは、
どう見たって、お馴染みのタマちゃんとは
ずんと年齢が違いそうな小さい仔猫。
つか、本猫が傍にいるのだ、
別猫だってのは葉柱でなくとも判ろうことであり。
「そういういちいち引っ掛かるような言い回しはやめろ。」
「つか、話が進まねぇんだけれど。」
すすす、すいませんでしたっ。
筆者が大人しく引いたところでの仕切りなおし。
白地ベースのその上へ、
まるで黒いお帽子をかぶっているような、
所謂トムキャット型の毛色をしたタマちゃんと、
どこからどう見てもお揃いという配色の
まだまだ幼い仔猫さんがもう一匹現れて。
セナくんのお膝に前足掛けてにゃあと呼びかけたり、
よたたよたたとタマちゃんのお尻尾を追っかけたり、
なかなかにお元気そうではあるものの、
「…確かタマはオスだったよな。」
「おお。」
「じゃあ、どっかで生ませた子なのかな。」
「それもないらしいぜ? 一応は虚勢手術してあるって。」
一応ってのは何なんだ。
だって俺専門家じゃねぇし。
それと、
「聞いた話じゃ、人間だってコン〜〜してても
避妊に失敗することって結構あるらしいし。」
「誰から聞いたそんなネタ。////////」
おいおいどっちが年上かというような、微妙な反応示しつつ、
「ともかく。昨夜の遅くに外回りから戻ってきたタマがな、
このミニチュアを連れて来たらしくってだな。」
「ママがね、
タマの子じゃないのよってゆったのは判るのだけれどね。」
避妊云々、さすがに仕組みまでは判ってないだろけれど、
子供が出来なくなる処置だというのは判るらしいセナくんが、
「ウチにはタマが居るから飼えないのよって、
そう言ってどっか連れてくってゆーの。」
えくえくと泣き出しそうになる坊やなのへ、
そちらさんはベッドの縁に腰掛けてたのを立ち上がり、
ほらもう泣くなとなだめつつ、
「間の悪いことにな、
社会科の課外学習で、
保健所の犬猫の殺処分の話を聞いたばっかなんだ、俺ら。」
「…そうか。」
こそりと妖一くんが付け足した一言だけで十分話は通じて。
だからどうという先はさすがに要らなかった総長さんでもあって。
「セナ坊のお母さんは、
いきなり保健所へ連れてくって言った訳じゃないらしいんだがな、
交番へ持ってったって同じような扱いになりかねねぇ。」
そいでってことか、今朝早くにウチへ転がり込んできたんだけどもなと、
そういえばランドセルが二つあるのをベッドの上へと認めた葉柱。
今日は平日で、小学生とはいえ高学年の彼らだから、
今時分に家にいるのはちとおかしい。
もしかして…朝からこうして、小さなおでこや肩を引っ付け合い、
善後策を考えていたかれらなのかと思うと、
叱るより痛々しいなと思えもしたが、
「そこでだ。
いっちばん最初の質問への答えになんが、
ルイか阿含なら来いって名指しで呼びかけてたのは、
この首輪のせいなんだな。」
「…首輪?」
あまりに小さい仔猫は、昨年の秋の子か、
はたまた…下手をすりゃ、
先の最初の春の盛りでまとまった仲の親から生まれた
正しく生まれたてかもしれない子だのに、
それが一人でウロウロしてるってのはおかしい。
『俺もな、最悪それかも知れんって危ぶんでたんだけどもな。』
まだ乳離れもしないうち、
人が引き離して残酷にも捨てたんじゃなかろかとも危ぶまれたところへ、
「これってさ、有名ブランドの首輪なんだな。」
「…おお。」
アナグラムがちりばめられた、それは高級そうな革の地に、
銀のプレート…と呼ぶにはあまりに細長い金属の飾り鋲もついており。
「飼う気がない仔にこれはない。
本人が世話をしないまでも、
金に飽かせてそのくらいは都合がつくからこそって
アイテムだと思わね?」
すっぽ抜けたのか、家の居まわりに落ちてたと
セナくんが拾って一緒に持ってきた代物だそうで、
「このプレートにはさ、シリアルナンバーが振ってあるんだ。」
「だったら、買った奴も問い合わせりゃ判るんじゃね?」
そのくらい、自分が言い出さずとも判っていようにと。
そこまで気づいて…ちょぉっと嫌な予感がしだした葉柱さんだったのへ、
「ハッキングできないほど厳重な管理してやがるからよ。
連絡したら、
関係者が来て引き取ってくだけ…になる恐れが大きいんだな。」
「…それだとどう不味いってんだよ。」
つか、これほどの大企業の管理コンピュータに、
ハッキングしたんかお前と、
小さなお友達のやらかした…かも知れない
無謀行為を恐る恐る確認すれば、
「したさ。」
判っていたけど、
けろりとしたお返事はそれは深々とこちらの胸へ突き立って。
「安心しなよ、尾行される間抜けはしてねぇ。
あちこちのゴーストゲート経由でコンタクトしたし、
向こうに入り込みさえ出来なんだんだから
とことん追い詰めては来ないさ、多分。」
「最後の楽観主義的な一言の根拠を述べろ。」
迷子の仔猫という、
何ともかあいらしいネタなんで安心してたらこれかいと。
小悪魔さまの小悪魔さまらしい所業に、
今回もやっぱり溜息つかされてしまった総長さん。
ああいうところってのは、意外なところで世界中に暗躍してる規模のマフィアとかからんでるって話だぞ、バッタもんが駆逐できないのも、そんなスーパーコピーを作ってる工房の中に、そっち系の組織のもあって、本社でさえ手出しできないでいて、それどころかバリバリ本物のラベルを提供させられてるって都市伝説まであるほどで……
「る〜い、どした?」
「…なんでもねぇよ。」
ここでそういう話を広げても詮無いかと。
やっぱり諦めてしまった葉柱としては、
「問い合わせしねぇならどうすんだ。」
というか、何で素直に渡さねぇの?と、素朴な方向から問うてみれば、
「…こんな不注意しやがる有閑マダムっての、放っておけねぇじゃんかよ。」
こうまで小さいのがよたたよたたって外ん出てたんだぞ?
世話が人任せなのはしょうがないとして、
ちゃんと見守れねぇ奴に任せるような節穴じゃあ問題大ありだかんな、と。
“そっか、どこの誰かを突き止めときてぇんだな。”
なので、匿名性のある引き取られ方しかしないだろう“問い合わせ”は
はなからするつもりはなかったと、
そういう姿勢を暗に見せた坊やだったのへ、
「〜〜〜何だよ、何かおかしいかよ。////////」
「別に。」
我が事みたいに泣き出したセナくんほど判りやすくはなかったが、
なんだ、お前だって心配しまくりじゃんかと。
そうと気づいてのつい、口許にニヤニヤ笑いが浮かんでしまい。
それを見咎めた坊やから、
今日も今日とてなかなか強靭な蹴りを食らいつつ、
「だからっ、早くそれなりのメールを打ちやがれっ!」
「痛ってぇな。そもそもメールって、どこへだよ。」
「ルイの母ちゃんの伝手へだよっ!」
これこれこういう迷子が居ますって、心当たりはありませんかって。
阿含にも贔屓筋のマダムへメール打ってもらってんだ、
どっちが早いか見ものだなと。
微妙な言い回しを付け足したものだから、
「…っ!」
それが故意になら、相変わらずに人を顎で使うのが上手な坊っちゃんであることよ。
ムキになっての、母上の知り合いだけに留まらず、
知り合いのどこまでもへとメールを打ち始めたお兄さんなのへ、
やっとのこと落ち着いたのか、
こちらさんは余裕を出しての、仔猫と睨めっこを始めた小悪魔さん。
相変わらずの皆様の、相変わらずの騒動だったみたいでございますvv
〜Fine〜 11.05.18.
*猫の妊娠期間は9週間だそうで。
ということは、そろそろ節分辺りでカップルになった夫婦の仔猫は
よちよちと徘徊しだすころかもななんて思っての末に思いついたお話です。
それにしても、
ウチって 他のお部屋も含めたら仔猫さんの出演率高いよなぁ。(笑)
めーるふぉーむvv
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